新型コロナウイルス感染症に関する不要不急の外出、外食自粛で大打撃を受けた多くの飲食店がテークアウト商品を打ち出し奮闘する中、宇都宮市のフランス料理店「RESTAURANT chihiro（レストラン チヒロ）」のオーナーシェフ相馬千尋さん（41）は健康志向デリ専門店「FARMDELI（ファームデリ）」、洋菓子店などで一定の売り上げを維持している。フードディレクターとして県内外で活躍し、本紙の人気企画「FARMDELI RECIPE」も監修する相馬さんにコロナ禍打開策のヒントと思いを聞いた。
コロナ禍 飲食店の今
2月末から国内感染者が急増し、一気に自粛ムードに突入した。3月2日に全国一斉休校が要請される中でいち早く7日、レストランチヒロとして隣接の懐石料理店「了寛」とコラボレーションしたディナー用の「サクラサク弁当」をリリース。3千円と決して安価ではないが連日予約で完売。3月限定だったが要望が多く、4月以降も単独で2500円とパティスリーの焼き菓子が付いた5千円の「chihiro BENTO」を発売し好評を博している。
相馬さん（以下、相）：どちらの弁当も「店で記念日をお祝いしたかった」というお客さまに「おいしいという喜び」「特別感」を届けたくて発売した。リリースが早いのは、コラボ弁当は東日本大震災のときも出していたのもある。けど、僕のスタイルは「スピーディーに決める」。決めることで変えることができる。迷って、決められないことは何も生まないし、最大のリスク。「まずは決める」。
イートインとテークアウトを兼ねた「ファームデリ」は３月中旬、イートイン客が激減した。売り上げは一気に落ち込んだが、逆に伸び始めていたテークアウトに舵を切った。一定の売り上げを維持している。
相：一時売り上げが落ちたのはイートインの約半分を占めていたママ世代が、一斉休校でランチに来られなくなったから。理由が分かれば早い。従来の総菜選択型のテークアウト商品に、家族で満足できる主菜選択型で主食多めの「DELI BENTO」を加えた。ショーケース内も弁当を主役に一新。入店組数を制限し、会計後は車で待っていただき商品を渡す半ドライブスルー方式にして安全安心確保に徹底。「スタッフを守る＝お客さまを守る」ですからね。制限解除以降もデリは５月末までイートインを貫く。まだ外食に抵抗がある人はいるはずだから。
４月から店内飲食を自粛していたレストランも緊急事態宣言の緩和を受け、5月11日から再開した。人数制限など物理的な感染症対策に加え、「全ての人に配慮を」とインフォメーションに添えた。
相：基本的にchihiroはマナーの良いお客さまが多いので心配はしていない。けれど、より安心して楽しんでいただけるような空間づくりが重要でお客さまの協力が必須。それがなければ、事業として持続が不可能になってしまう。互いに感染症対策に努めながら、特別な空間を楽しみましょうというだけの話。このスタンスがスタンダードになっていくでしょうね。
コロナ禍中の3カ月間、レストラン、パティスリー、ファームデリ、フードディレクターの四つの事業軸でリスクを分散。県内外のフードディレクター業では依頼主と密に連絡を取ってサポートし、経営者としては従業員全員に「解雇はせず、給料は100％保障する」と約束した。
相：従業員一人一人が安心して力を発揮できる環境を守りたかった。僕一人では何もできない。全てチーム戦だから。 新型コロナは突発的で予想外の連続。決断の瞬発性がすごく問われたけど、「どんな価値を世の中に提供できるか」という本質は同じ。変化する社会の流れを読み、社会の役に立つ価値を生み、提供し続けるのがビジネス。さらに、僕らのチームには「楽しいか否か」も根底にある。それは絶対、お客さまに伝わる。チームで「今どんな価値が提供できるか」を考えて、いっぱい球を投げて、失敗して、当たるまで投げ続ける。投げないと分からない。たくさん失敗はあったけど（笑）、失敗にも学びがあり、良いこともある。
相：13日で13周年を迎えたレストラン チヒロも「三密」を回避した小規模ウエディング、パーティーの場の提供に力を注ぎたい。コロナ禍でもお祝いしたい気持ちまで制限してほしくない。オンラインも踏まえたクッキングサロンの計画も進行中。料理人、フードディレクターとして、「食」を理解し、楽しめるコンテンツを提供していきたい。
お問い合わせ
レストラン チヒロ（宇都宮市吉野1-7-10）☎028-633-5952
ファームデリ（宇都宮市松原3-6-28）☎028-678-4664
